80才近い患者さん
とてもユニークでお年を感じさせないとってもすてきなおしゃれなご婦人
事務さんが言った。
「あんな人だったら同居してもいいな。」
そう、結婚したら絶対同居は嫌だけどああいう人ならOKなんだと言うのだ。
ちゃっかりしている。
でも私も同感。
その患者さん、世間話っぽくたんたんと話し出した。
驚きの体験を・・・。
「私は食道静脈瘤で手術したことあるの。もうー大変だったんだから。」
話は続く・・・。
なんと用事があって電車に乗っていたら、突然吐血したという。
それも噴水のように吹き出したのでまったく目が見えなくなってしまった。
とにかくなんとかしようと必死で手探りし電車が止まったら降りなければ・・・と思ったと言う。
しかし目の中に血液が入り込みまったく回りが見えない。
吐血した直後、回りにいた乗客が「キャー」と叫び、一斉にそばから離れたという。
目は見えなくてもその様子ははっきりわかったと言うのだ。
とにかくどうしよう、どうしようと思い途方にくれていたら
見知らぬ男性がさっと駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか?次の駅でおりましょう」としっかり体を支えてくれ、抱きかかえるようにしていっしょに電車を降りてくれたという。
その間、もちろん目は見えない。
しかも降りて少し歩いたためかホームでまたとてつもない量の吐血をした。
「あー」と思ったがそこで記憶が無くなった。
救急車が呼ばれ最寄りの病院へ。
そして本人の意識がないまま緊急手術が行われ数日間意識不明の状態が続いた。
入院して治療。
数ヶ月後・・・・。
なんと奇跡的に術後の経過もよく無事退院できることに。
あの助けてくれた人が忘れられない。
なんとしてでもお礼が言いたい。
男性に助けられて降りた駅に行けば駅員さんが知っているかもしれない。
早速出向いて行き聞いてみた。
「あの〜数ヶ月前に吐血して救急車で運ばれた者ですが・・・・」
全部を言う前に「エーツ?あの時の人ですか??」
「エーッ!?生きてたんですか??それはよかったー」
・・・と本当に喜んでくれ、「まあどうぞこちらに」と、駅長室に通されお茶をご馳走になったという。
助けてくれた人の連絡先を教えてもらい、早速菓子折持参でお礼に行った。
ところが何度お礼を言っても足りないくらい感謝しているのに、逆に元気になって本当によかったと喜んでくれ食事をご馳走になりすっかりお世話になってしまったらしい。
当時の事を思い出し、こう言ったという。
「日本人は冷たいですね。誰も助けてくれないのにはびっくりしました。」
彼は中国人、奥さんは日本人だった。
医療に携わっているとどうしても血液は恐い。
もう頭にこびりついている。
絶対に素手で触るなと教えられている。
医療事務さんが行った学校でもしっかり教えられたという。
たとえ自分が勤めている病院の待合室に出血した人がいたとしても
絶対に素手で触わってはいけないと・・・。
助けてあげなければと思っても果たしてどこまでやってあげられるのか私も心が痛くなってしまった。
いつもゴム手袋を持っているわけではないし。
もしたいへんな状況に遭遇したら・・・。
この貴重な話を聞きながらずっと私は痛かった。心が・・・・。